空気入れの圧力計を直した話

空気入れの圧力計を直した話

1. 空気入れの圧力計が動かない

今回修理する空気入れは下記のモノ。
バイクや自転車のタイヤに使っている足踏み式のもので、手でやるより楽なので愛用している。(コンプレッサーを置けるならそっちの方が楽だろうが…。)
メルテック F-57 フットポンプ シングル 圧力計付 大自工業 Meltec
しかし、付いている圧力計が全く動かない。
最初から動かなかったのか、どこかのタイミングで壊してしまったのかそれもよくわからない。

この空気入れに付けられる圧力計が無いか調べたが、高価だったり、計測できる圧力の範囲が違ったり、個人用の入手経路が無かったりと適当な製品が無かった。

自転車であれば、多少タイヤの空気圧が高くても低くても特に問題はない。しかし、バイクは事故につながるので、タイヤの空気圧を適正に保つことは重要だ。
空気入れの後に空気圧計で圧力を確認するので作業は出来る。しかし、空気を入れている最中に確認する方法が無いため、確認と空気入れを何度も繰り返すことになり面倒。

一応、使っている空気圧力計は下記のモノ。
1000円しない安い物なので、どの程度の精度があるのかは少し心配だが、使わないよりはましだろう。

2. 圧力計を分解

早速、壊れていると思われる空気入れから圧力計を外した。
ネジ式になっていたので、くるくると回したら外れた。

裏面にあった2本のネジを外すと、写真の様に内部が見えるようになった。
驚いたことに想像以上に単純でどうやって圧力を計っているのか、いまいちピンとこなかった。
ダイアフラムやギアが入っているのではと予想していたので、想定外の部品の少なさだ。

ネジ2本を外すと、表示板側も取れた。
表示板側から見るとこのような形状だった。
曲がった中空で真鍮製らしき板(もしくは潰れた管?)に、針金がロウ付けされているようだ。

固定して針を動かしてみた。
針に合わせて板が動くのが分かる。
空気がこの板(管?)に入ると伸びようとするのを利用する仕組みのようだ。

非常に単純で、これは間違いなく安く大量生産するのに向いているし、めったに故障しないだろう。まあ、今回は故障しているのだが。

3. 圧力計の仕組み

折角なので、このような空気圧計について調べることにした。
この空気入れについていた空気圧計はブルドン管圧力計というようだ。

曲がった管に空気が入るとまっすぐになろうする。
圧力が無くなるとバネとして働き元の位置に戻る。
材質が金属なので、フックの法則から考えれば圧力と変位は比例するのだろう。
(コイルばねかつ断面形状が変形するはずなので、正確には違うかもしれないが、変位が微小なのでほぼ無視できるだろう。)

簡単に言えば縁日で売っている吹き戻しだ。
恐らく日本人であれば1度は遊んだことが有るだろう、吹くと巻かれた薄い紙の筒が伸びて音を鳴らすあのおもちゃだ。
薄い紙の筒を金属にしたものが、このブルドン管といってもよさそうだ。

今回は簡易な仕組みだが、ギアを使って変位を拡大する仕組みを加えたり、管を渦巻き状にしたり弦巻状にして変位を大きくすることでより細かい計測ができるようにしたものもあるようだ。

最初に予想した、ダイアフラムは変位が微小なので、機械式の圧力計より電気的もしくは光学的に読み取る方式が主流らしい。薬品や液体にブルドン管が侵されないように、ダイアフラムとブルドン管を組み合わせたブルドン管に直接流体が流れない方式もあるようだ。
他に、ベローズ(ふいごの事)式圧力計という方式もあるらしく、こちらは微小な圧力変化を計測するのに向いているらしい。

参考サイト

4. 圧力計の校正

さて、仕組みは分かった。
つまり、圧力計が動かないのは、ブルドン管が何かの原因で歪んで表示より大きな圧力でないと動かない状態になってしまったのだろう。
仕組みが、簡単なので直すのも簡単だ。
板を少し曲げるとバネのように元に戻るが、大きく曲げると元の位置より曲がった位置にしか戻らない。これと同じことで、ブルドン管を少し伸ばしてやれば直る

赤い矢印の方向に少し伸ばす。ほんの少しなので見た目上はほとんど変化が無い。むしろ目見見えて変化が分かるほ曲げると恐らく上手く動かなくなるので、曲がっている部分を少し大きめに動かすように伸ばす。

カバーをつけずに、空気入れに圧力計を戻すと動くようになった。
後は値が正しい値に近くなる様に調整をする。
この作業には空気入れとは別に正常な空気圧計が必要だ。

①空気入れの先端に空気圧計をつけた状態で、空気入れで空気を送り両者の圧力を比較する。

②空気入れ側の圧力が小さければ、また管を伸ばす。空気入れ側の圧力が大きければ、伸ばす方向とは逆方向に少し曲げる。

③同じ値を示すようになるまで①②を繰り返す。

ちょっと触っただけで大きく変化してしまうので、あまり大きく曲げないように気を付ける必要がある。

調整が出来たら、カバーをつけて再度圧力を確認して問題が無ければおしまいだ。
これで、空気入れの圧力計を直すことができた。


5. まとめ
  • この空気入れの空気圧計はブルドン管圧力計だった
  • 空気入れに付いている圧力計は非常に単純で空気圧計があれば直せる

6.感想

思わぬところで機械式の圧力計の仕組みを実感できてとても面白い経験となった。
更に、空気入れを買い直すことなく作業性を改善できたのでこれはとても有意義な修理だった。同様の症状に悩まされている人の参考になれば幸いだ。
しかし、空気入れの圧力計はあくまで参考程度のモノなので、このように適当に直しても問題ないが、精度が必要な圧力計はこのような分解修理はしない方が良いだろう。まあ、一般家庭に空気入れ以外の圧力計があるとは思えないが。

液柱を使う方式のマノメーターは授業や実験で扱ったこともあり、仕組みも分かっていた。(というより見れば分かる。)しかし、一般生活でよりよく見かける機械式圧力計の種類や仕組みは、自分でも驚いたが今回の修理をしようと思うまで全く気にした事がなかった。
更に、なんとなく修理できないモノとして、ブラックボックスのように扱っていた。
しかし、ブルドン管圧力計は想像していたより単純で自分の理解の及ぶ範囲のものだった、動作原理をよく調べもせずに複雑怪奇なブラックボックスとして扱っていたのは、知識不足をそのままにする愚行だった。分からないと決めてかからずよく調べることの大切さを改めて感じた。

以上、空気に感謝を捧げてこの文章を終わる。
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